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東京家庭裁判所 平成2年(家)5727号 審判 1990年7月06日

申立人 ○○児童相談センター所長X

事件本人 A

主文

申立人が事件本人を養護施設に入所させることを承認する。

理由

第1申立ての趣旨及び実情

申立人は、主文同旨の審判を求め、その申立の実情の要旨は「事件本人は親権者である父により養育されてきたが、父の養育方針が厳格で暴力にも訴えるため、事件本人は父を恐れ家出を繰り返してきていた。本年4月には家出した事件本人を保護した警察からの通告により○○児童相談センターが関与したが、父が強引に事件本人を連れ帰った。その後もさらに父に暴行されて負傷するに至り、事件本人が警察に保護を求め、その通告により本月18日同相談センターが事件本人を一時保護したが、このままでは更に父の説教と暴力は続く恐れがあるため、事件本人の福祉上養護施設に入所させることが相当であるのに、親権者である父がこれを承諾しないので、児童福祉法第28条により事件本人を養護施設に入所させることにつきその承認を求める。」というにある。

第2当裁判所の判断

1  家庭裁判所調査官作成の調査報告書その他本件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  事件本人は、父実と母Bとの間の長男であるが、父母は事件本人が生れて一年足らずの昭和53年8月に協議離婚し、父が親権者となって事件本人を引き取った。しかし、現実には父は単身上京して働き、事件本人は主にa市の祖父母のもとで養育されたが、小学校5年生終了時の平成元年3月には上京して父と同居生活をするようになった。父は教育熱心で、事件本人を上京させたのも、良い中学に入れるようにするためであった。事件本人は父の言うとおりに学習塾に通い、本年春b中学などを受験したが失敗し、結局練馬区立c中学校に進学した。母の所在は不明である。

(2)  父は、事件本人が学校の成績が良いことから将来を期待し、このため特に勉強に関しては厳しかった。そして、以前から叱責の際に暴力に及ぶことがあったが、昨年の夏頃からは、事件本人は勉強の出来が悪いなどとして殴られたり、蹴られたりすることが多くなり、金属バットで殴られることも何回もあり、怪我をしたこともあった。このため、事件本人は父に対しては恐怖感を抱き、家にいるより塾に行っている方が気持らが休まった。

(3)  事件本人は、本年3月27日父から勉強のことで叱られて家出し、野宿したり、友達宅に泊ったりして過ごすうち、心配した友達の母親などが学校に相談し、結局、警察から○○児童相談センターへ通告がなされた。同センターでは事態を重視し、事件本人を養護施設に入所させることを父に説得したが、父は一旦承諾書を書いたが撤回し、4月14日強引に事件本人を連れ帰った。

(4)  その後父が怪我で入院し、上京した祖母が事件本人をaに連れて行ったが、本年5月11日父はこれを連れ戻し、反省文を10枚ほど書かせたり、殴るなどした。このため、事件本人は同夜家出し、友達の家などを泊まり歩くうち、同月14日父に発見されて傘の柄で頭部を殴打する暴行を受け、全治10日の負傷をした。警察から通告を受けた児童相談所は、父に養護施設入所を再度説得したが、父は聞き入れず、同月16日家に帰りたくないといっている事件本人を連れ帰った。しかし、事件本人は翌17日通学を装って家を出て、警察に保護を求めた。そこで、○○児童相談センターで一時保護したうえ養護施設へ委託している。

(5)  事件本人は、委託先施設から元気に中学校へ通学しているが、父のもとに帰ることを強く拒否し、施設での生活を望んでいる。

(6)  調査官の調査において、父は事件本人を養護施設に入れることに依然として反対し、今回の児童相談所など関係機関の対応に強い不満を表明した。

2  以上の事実によれば、父親の事件本人に対する厳しい態度は事件本人の将来を期待したからこそのものではあったが、叱責に暴力を伴うことが徐々にエスカレートし、事件本人が負傷するという異常な事態にまで発展し、事件本人は父の態度、行動におびえあるいは反発して家出を繰り返すようになってしまっている。したがって、もはや家庭は事件本人が落着いて生活できる場ではなく、事件本人をこのまま父の監護下におくことは、父の暴力による危険に事件本人をさらすこととなり、かつ事件本人の性格形成上にも悪影響を及ぼすことが明らかで、著しく事件本人の福祉を害するものと考えられる。そして、当分の間は事件本人を父から別れて生活させたうえ、徐々に親子関係の修復を図ることが必要であると思われる。そこで、その他本件で認められる諸事情をも考慮したうえ、事件本人を養護施設に入所させるのを相当と判断する。

よって、本件申立ては理由があるから、児童福祉法28条により主文のとおり審判する。

(家事審判官 木村要)

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